音のある画集、iPhoneアプリ「Drawings & Music」でコラボレーションしていただいた現代美術家・安田悠さんとorganic stereoさんに、お互いの作品に対する印象やアプリの制作秘話などを話していただきました。
iPhoneアプリを見た印象はどうですか?
- 安田
- いい!
- 森川
- 素敵だと思います。常に入れておきたい感じ。
どんなシーンや場所で使ってほしいというイメージはありますか?
- 安田
- まず、普通に絵を見るのと、音楽を聞くのってモチベーションが違うかな。絵は画集とか見なくちゃという感覚だけど、音って生活の中で自然と入ってくる要素が強いのかなって。そういう意味では、今までの作品の見せ方と違う感じで、音から入る見方で、絵も入ってくるのかなと思います。
- 森川
- 悠くんの話にもつながると思うんだけど、画集とかだとじっくり見るけれど、もちろんそういう見方もできるけど、たとえば部屋の片隅に置いておくでもいいし、食卓に置いておくでもいいけど、それが常に流れていて、ふとした瞬間にそれが目に入る、っていう使い方ができるんじゃないかな。
過去のコラボレーションについてお聞きしたいのですが、ウェブサイト「にほんごの木」は、はじめに悠くんの絵があって、それから森川くんが音楽をつけたそうですが、音が加わったときの印象はどうでしたか?
- 安田
- 森川くんの曲自体が自分の中で抽象的な要素がすごく多いように感じていて、押し付けるのではなく、聞き手によっていろんな見え方がするというか。そういう意味で自分で描いた絵はこういうイメージでって描いたものだけど、それに音が入ったものを聴いて、自分でも描いたときとは違う見え方がした。「あ、すごいすてき!」と思って。
私も絵の段階からみていたのですが、音が重なると、世界が大きく広がった感じがしました。すごいですよね。
- 安田
- そもそもオーガニックステレオのファンだから(笑)
- 森川
- (照れる)「にほんごの木」は悠くんの絵と渡辺奈緒子さんの文章があって、すべて合わせてあれがパッと出てきて。作りやすかったという記憶があります。
- 安田
- うれしい!
- 森川
- あまり苦しんでというのはなかった気がする。それは悠くん独特の世界観があるから、、それが何かっていうと難しいんだけど、悠くんの絵自体も想像力を働かせるスペースがいっぱいあるような気がするから。さっき悠くんが言っていた「押し付けがましくない」と通ずる部分がある。何の準備もせずに出て来るっていうのはあるんじゃないかな。
見る人や聞く人によっていろんな捉え方ができるというのは二人の共通点かもしれないですね。
今回のiPhoneアプリの音楽は「Upon My Soul」がベースにあって、そこに悠くんの絵をイメージして作ったんですか?
- 森川
- 元の素材として、Upon My Soulのパーツは使ったら面白いかなと思ってたんです。今回のアプリの悠くんの作品は、幅広い年代の絵が入っているので、それに音楽が並ぼうとするときに何ができるか考えてみて、Upon My Soulもそうだし、それ以外に2008年にリリースしたファーストアルバムの他の曲の断片を色々使うことにしたんです。
- 安田
- おもしろい!
- 森川
- 2008年のアルバムも昔に作った曲を使っているので、若干悠くんの年代と重なるかと思って。そういうのがいろんなところに散りばめられているんです。さらに全体を見せてもらって感じたことを、新たにメロディーとして作り出しています。
- 安田
- (やや興奮しながら)それがですね、ベースになった曲のUpon My Soulが、おれね、一番好きで!話を聞いて今びっくりした。それがベースになってたんだと思うと、なんだろうこの感じ(笑)。
それぞれ別々に活動していたけれど、いま重なって一つの作品となったのがこのアプリなんですね。
森川くんは、悠くんの一番好きな作品はありますか?
- 森川
- 好きなものはいっぱいあるから、これというのは難しいんだけど、特に印象に残ったのは「面影の向こう」かな。特にすごいなーと思った。びっくりする。
- 安田
- 前回の個展のときの作品だね。あれがメインの作品。
- 森川
- けっこう大きい?
- 安田
- 160センチ×130センチ。
- 森川
- 実際見たらすごいことになるよね。
- 安田
- すごいことになっちゃうよ(笑)。
その作品のどういう部分が好きですか?
- 安田
- 緊張する?(笑)。真横で自分の絵の感想聞くことなんて滅多にないから。
面影の向こう / Oil on Canvas / 1600x1300mm / 2010
- 森川
- (実際にPCで絵を見ながら)なんかこう、どこまでも奥行きがある感じ。深い奥行きがあって。
- 安田
- この作品は奥まで続く感じが強く出てるかもしれないね。他の作品と比べると。
- 森川
- そうだね、自分の深い部分や普段の生活では気づけない部分だったりするんだけど、それがふっと浮かび上がってくる瞬間があって。とても大事な部分だと思っていて、それをふわっと引き出してくれることに凄さがあって、そこに感動した。
- 安田
- ありがとう!
- 森川
- 悠くんの作品は、自分の内側の深い部分に触れることができるような気がして、なんだろう、、優しいというか親切。世の中にすごい絵っていっぱいあるけど、悠くんの作品は独特で、突き放す感じがしないんだ。すごいんだけど、自分の内側に自分の意識がいくのが素敵なことだな、と。
- 安田
- どうしよ??結婚しようかな(笑)
悠くんはeuphoria時代からのファンとのことですが、森川くんの音楽のどういう部分が好きですか?
- 安田
- 日常で聴いているので、自然なんだけど、より場所とか時間とか、どこにいてもどんな人と過ごしていても、曲が入ってきたときに、より自分の世界に入れる。 聴きながら描いていることを思い出すと、完全に入り込むというより、そこにあるキャンバスと自分との、「間」くらいの距離感。すごい絶妙な「間」にあるような感覚になる。いい意味でニュートラル。だから洗脳されないし、曲だけに左右されないし、でも音楽があることでイメージが広がるきっかけになるような。
自分の中に向かせてくれるっていうのがまた共通点ですね。
- 安田
- やばい!相思相愛じゃないですか!
- 森川
- 予期せぬ展開。なんか暑くなってきた(笑)。
人として、友人としてはどんな印象を持っていますか?
- 安田
- シャツが似合う(笑)
すごいわかる!
- 森川
- それ、人としてなのかな(笑)
- 安田
- ライブを見て一番衝撃だったよね。MCとのギャップがすごいよね。 サッカー少年のエピソードとかの意外づくし含めて、 ほわーってしてる雰囲気なのに、ギャップがある。
見た目から想像できないようなエネルギーを持っている感じしますよね。森川くんは悠くんの印象をどう持っていますか?
- 森川
- 個人的に二人で話したことはなくて、ミーティングとかでしか会ったことないのですが、なんか普通じゃない感じがする(笑)。すごく話しやすいし、他の人とのコミュニケーションも上手で、そういう部分は素晴らしいと思うと同時に、きっと普段感じていることで言語にできないような部分をすっごいいっぱい持ってそうなだな、と。
それは今まで会ったときに感じていたんですか?
- 森川
- 悠くんのことを知ったのは絵からなので、まずそこがあるっていうのが大きいかもしれないね。そして実際に人柄を見てという流れだから。内側はいろいろすごいんだろうな、って思う。
ギャップ力をもっているという共通点がまたみつかりましたね。
お互いに聞いてみたいことはありますか?
- 安田
- タイトルについて聞きたくて。いつもタイトルをつけるのに悩むので。全部untitledにしたいくらい。曲の場合はどうなんだろう。最初にこういうカテゴリーを作って、メロディーを作っていくのか、それとも出来ていく中でタイトルをつけるのか。
- 森川
- タイトルの付け方については、僕も苦手なんだよね。作り方については、タイトルを決めて、大枠を決めて、必要なものを、という流れではないんだよね。一音からつくっていく感じ。楽器をもって、ポンと出した音からいろんなものが膨らむ感じ。
メロディーではなく?
- 森川
- メロディーではないかな。楽器の音色から誘われてメロディーが出て来る感じ。楽器はギターだったりマリンバだったりピアノだったり、そのときによって違うんだけど。はじめの一音からすべてを探り出していることが多い。こういう曲でこういう長さでこのくらいの楽器の量を使って静かな音楽にしよう、とかはまったく無い。はじめにポンと置いてそこから見えてくるもので作っていくから、できちゃった感がある。こういう流れだから、もしかしたら曲のタイトルも難しいのかな。
- 安田
- 一緒!!!!一音と似てる。一筆いれて、それから反応する色とか形を作っていくから、なんのビジョンもない。昔は違ったけど、ここ最近の制作はそんな感じで作られていっていて、完成したものはイメージがはじめにあるわけではないので、もうそれはそれでしかない。
アルバムや展示会のテーマははじめから決めているわけではなく、制作中に出てきたものということですか?
- 森川
- そうだね。
似てますね。
- 安田
- どうしよう!!(笑)
森川くんは悠くんに聞いてみたことはありますか?
- 森川
- 今悩んでるというか、考えている部分があって。さっき話したような制作方法ってすごくいいものを作れる自信があるんだけど、時間もかかるしその時の自分の状況に左右されることがある。それをコンスタントに作っていくときのバランスやテクニック、意識の持ち方とかを考えていて。
- 安田
- (深くうなずく)
- 森川
- ある程度の枠組みとかは作ってはじめることも必要なのかな?。
- 安田
- すごくわかる!すごい時間かかるし、昔のわりと具体的なイメージをもって書いていた頃より、抽象的な自分のイメージでそのときそのときで反応して作っていくのは、いいものができる可能性がたくさんあるけど、同時にかなり不安だから。できあがるまでが見えてないから、何回も壊すことがあるし。具体的な何かが欲しいってインタビューでも話したんだけど、自分の中で具体的な一個でもいいから、そろそろ欲しいなって。そこを中心に広げていけるような、要素は欲しいかなと思ってる。それもなかなかすぐにみつかるものではないけどね。
- 森川
- それは一つの作品に何かというより、悠くんの作品として?
- 安田
- うん。
- 森川
- そうだよね。同じ1982年生まれだよね。年齢的に考えることもあるよね。それがどしんとした軸というものかもしれないし。この間ちょうど30歳になったんだど、それを境に考えるようになったんだ。
今後二人でやってみたいことはありますか?
- 安田
- なんでも。提案があれば。
- 森川
- なーんでもやりたいよね。。
- 安田
- アイディア人任せ(笑)
これまでと逆バージョンはどうでしょう。森川くんの音楽に合わせて、悠くんが作品をつくるとか。あるいは、ノンスタで何か言葉を用意してそれに対してイメージをもってきてもらって、一つの空間でみせるのも面白いかな、と。悠くんは、音楽を聞いて出てきたイメージを作品にしたことはありますか?
- 安田
- 一曲だけを聴き込んでってことはないから、そういう作り方をしてみると違うかも。基本的にはアトリエの中で音楽をシャッフルしているので、一曲を深く掘り下げて聴こうとすればまた違うかも。
- 森川
- いろんなことができるかもしれない。何かしらの色なりパーツを楽器に置き換えて組み始める、ということもできるかもしれない。そういうのも面白いのかもしれないね。
今後が楽しみになってきましたね!今日はどうもありがとうございました!
Interview: Mai Oura (non-standard world, Inc.)
Photo: Kenji Takasaki (non-standard world, Inc.)
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