村上春樹の小説は、ブランデーっぽい。
艶やかな香りとまろやかな口当たりにぐいぐい調子に乗ってたら、バーのカウンターで立ち上がれないほど酔っ払ってしまう、あの感じ。だから時々読むくらい、飲むくらいがちょうどいい。
けれどエッセイは別もの。お風呂上がりのビールのように、肩の力がふっと抜けます。
「人はときとして、抱え込んだ悲しみやつらさを音楽に付着させ、自分自身がその重みでばらばらになってしまうのを防ごうとする。音楽にはそういう実用の機能がそなわっている。」
音楽と小説の存在意義についてさらりと語りながらも、心の奥がじんじんしびれてくる。帯には「日本一おいしいウーロン茶のようなエッセイ集」と書かれているけれど、いやいや絶対アルコール入ってますよ、村上さん。
ちなみにビールでも、瓶のヒューガルデン。スリーピースのスーツに身を包みんだ紳士のような品の良さが言葉の向こうに漂っていて、コンビニの缶ビールとはちと違う。爽やかに軽やかに、酔わされてしまうんですよね。
お知らせ
心がひとりぼっちになった時、そっと言葉で明かりを灯してくれる本、当店オリジナル、作家小谷ふみ著書「よりそうつきひ」が発売となりました(ご購入はこちらから)。 どこか切なくて、寂しくて、愛しくて、ホッとする。なんでもない一日を胸に焼き付けたくなるようなショートエッセイが束ねられた短編集です。読んでいると大切な人の顔が心に浮かんでくる世界が広がっています。