寄付をする。ボランティアに参加する。見知らぬ人を助ける。この3つの基準で各国のボランティア指数を測る統計の結果によると、日本は111位。先進国の中で限りなくビリに近いポジションにいます。
一方欧米では、道端で寄付を呼びかける声を見かければまずはお金を入れてから「何に関する活動なの?」と質問するほどごく自然に、ボランティア、チャリティが暮らしに根付いています。
「災害の泥かきだけがボランティアではなく、身近なことで誰かの役に立てるんだよというメッセージを微力ながら広げていきたいんです」。そう話すのは、ドナルド・マクドナルド・ハウスふちゅうのハウスマネージャー向井利之さんです。
この施設へは、当店から出版した作家小谷ふみさんの「よりそうつきひ」の売上の10%を寄付しています。自らの闘病経験から、家族と離れて暮らすことの辛さを知る小谷さんの思いもあり、本の一部を寄付すると決めた私たち。去年の暮れに見学へ行ってきたので、今回はその様子をご紹介したいと思います。
通称ふちゅうハウス
ドナルド・マクドナルド・ハウスは、病気の子どもと家族の滞在施設としてアメリカのフィラデルフィアで誕生し、現在日本では12ヶ所に展開されています。私たちが訪問したのは、東京都立小児総合医療センターの隣接地に建てられているドナルド・マクドナルド・ハウスふちゅう(通称「ふちゅうハウス」)。遠方に住む、通院が日帰りでは困難な家族を中心に、最大12家族が滞在できるこじんまりとしたハウスです。
付き添う家族が元気に過ごすため
なぜこのような施設が必要なのか。その理由は大きく3つあげられます。1つ目は、子どもを支える家族が元気に過ごせる環境を提供するため。病院での付き添いは、簡易ベッドはあるものの食事もなく、お風呂に入ることも難しいとのこと。付き添う家族の方が健康を保つことが困難だといいます。
病院に隣接する場所に自宅と変わらぬ環境で寝泊まりできる施設があることで、付き添う側も元気に子どもをサポートできるのです。
経済的負担を軽くするため
2つ目は、病気の子どもを抱える家族の経済的な負担を支えるため。施設の利用料は1泊1000円。遠方から通院する場合、通常はホテルを利用するケースが多いそうですが、長期入院の場合は費用が膨らみます。また医療の発達により、病気が判明する年齢というのが年々下がってきているとのこと。つまりは親の年齢も若く経済的負担がより一層かかるといいます。
夜中にふと子どもの顔が見たくなっても
3つ目は、衛生的にも精神的にも安心できる環境が必要なため。付き添う家族が風邪をひいてしまうと病棟へ入室できなくなり、ここに来ている意味がなくなってしまうので、健康管理は付き添う家族の重要任務。ハウス内はホテルとは違って、観光客等の出入りもなく同じ目的の家族が集まり、ボランティアさんの手によって常に清潔に保たれています。
また24時間出入りが可能のため、帰りの電車の時間を気にすることなく子どもと納得するまで一緒にいることができたり、夜中にふと子どもの顔が見たくなった時も安心して動ける環境です。
あえて部屋につくられた不自由さ
実際に滞在するお部屋を見せていただくと、12畳ほどの部屋にベッドが二つ、お風呂とトイレがついています。長期滞在では荷物が増えるため、少し余裕のある間取りにしているのだそうです。
唯一、自宅の寝室と違うところはテレビと冷蔵庫がないこと。飲食は基本NGで、共有スペースの台所を使用するルールになっています。それにはきちんとした理由があるのだそう。
「決してテレビ代をケチっているわけではなくて、部屋で何でもできるようにするとお母さんたちが孤立してしまうんです。あえて部屋を不自由にすることで、気分転換のきっかけをつくり、他の家族との交流を生み出し、利用している家族同士が支え合うような場所になってほしいと思っています。」
お母さん同士だから支え合える
子どもの闘病を支える家族の気持ちというのは話を聞くことはできても何もできない、と向井さんはきっぱり断言します。唯一支えることができるのは、ここにいるお母さん同士なんだと。
「病棟の情報交換をしたり、同じ病気の子どもをもつ人と出会ってアドバイスをもらったり、家族同士が支え合えているのではと思います。滞在の日が経つにつれて徐々に部屋の外に出ていくことの心地よさを感じてほしいですね。」
一部屋ずつきちんと扉があり、プライベートな空間を確保しつつ、ドアを開ければ子どもの元へすぐ駆けつけることができ、同じように頑張っている家族と交流することもでき、サポートしてくれるボランティアさんにも見守られている。
「ここはドアを閉めれば思いっきり泣くことができるからいい、とお母さんたちには言われているんですよ。」そう説明を加える向井さん。子どもの前では泣けないというのはいったいどんな気持ちなのか、理解することのできない無力感をもちながらも、この場所が家族の「心」のサポートに間違いなくなっていることが伝わってきました。
高校生から81歳までのボランティア
この施設を支えるボランティアの登録者数は177名(2017年12月時点)。高校生から81歳のおばあちゃんまで、多世代のボランティアさんが「それぞれができること」を通して支えています。
参加する理由は様々で、例えば将来看護師を目指す高校生は進学のために携わったり、一番多い主婦層は東日本大震災をきっかけに家の中でじっとしていられず飛び込んできた人も多いのだとか。最近は定年後のシニア層も増えているそうで、第二の人生の選択肢の一つとして精を出す人もいるようです。
家でやることがなくなったら行くくらいがちょうどいい
「家族構成も年代もバラバラの人たちと交流できるので、他の職場やコミュニティにはない情報量を得られるんです。雇用関係ではないので、仕事以外の気軽な相談事もできて助かるんですよ。」そう話す向井さんは、元ホテルマンとのこともあり、その経験がにじみ出るような 控えめな笑顔で教えてくれました。
そんな向井さんがボランティアさんに繰り返し伝えているのは「自分の生活のサイクルを崩さないでください」というお願い。中には「役に立ちたい!」と勢い良くやってくる人もいるそうですが、新しいことをするのは思っていた以上にエネルギーがいるもの。継続的に携わってもらうためには、「家でやることがなくなったら行く」くらいの気持ちがちょうどいいと話しているそうです。
ここは家、関わる人は家族
利用者にとってもボランティアさんにとっても、共通して伝えているのはこんな言葉。「Home away from home=我が家のようにくつろげる第二の家」。これはドナルド・マクドナルド・ハウスが掲げるコンセプトでもあります。利用する家族もボランティアさんも、ここを家だと思って、関わる人を家族だと思って接してほしい、と。
ふちゅうハウスは12室という小さな施設ということもあり、利用者の方を名前で呼ぶよう心がけているといいます。それはホテルの滞在では味わえない、それこそ「家」であり「家族」のようなあたたさかと安心感。
人が人を想う気持ちに満ち溢れている場所
見学をしていると、一箱のダンボールが届きました。送り主はこの施設の元利用者の方とのこと。誰かに助けてもらったから、私も助けたい。箱の向こうにそんな思いが見えます。
利用者はこの施設を退出する時、必ず次の家族のために部屋の大掃除をするそうです。ただサポートを受けるだけでなく、利用者の行動もまた次の誰かの助けと自然とつながっています。
今回の見学を通じて私たちは、この場所は人が人を想う気持ちが満ち溢れ、ゆっくりと循環もしている場所だという気づきをもらいました。そしてその循環に小さくでも参加できることがなんとも誇らしく嬉しくて、ポカポカした気持ちを胸に抱えながらに施設を後にしました。
思いを形にするところから、一緒にはじめてみませんか?
家族や友人など、手の届く範囲の人を幸せにすること。その地続きにもうちょっと遠くの人にも手を伸ばすことができたならば。それは見えにくい変化かもしれませんが、この世界がよりよい方向へ向かっていく小さな動力に間違いなくなるはずです。
ボランティアへ出向く余裕はないけれど誰かの役に立ちたい。そんな人にとって、私たちのお店から生まれた「よりそうつきひ」という本が、思いを届けるきっかけになれたらと思っています。微力かもしれませんが、きっとできることは大きなことでなくてもいい。まずは思いを形にするところから、一緒にはじめてみませんか?
<INFORMATION>
ドナルド・マクドナルド・ハウス ふちゅう
本以外の形でもふちゅうハウスの役に立ちたい!という方は、自宅で使うものならばなんでも良いので物資の寄付も常に受付けているのこと。トイレットペーパーとティッシュペーパーはいくらあっても足りないそうです。その他、洗剤、おむつ、歯ブラシ、レトルト食品等、随時受付けています。
住所:〒183-0042 東京都府中市武蔵台2丁目9-2 東京都立多摩・小児総合医療センター宿舎棟(けやき寮)1階
電話:042-300-4181
HP:http://www.dmhcj.or.jp/jp-house/1606/
募金の受付:https://donation.yahoo.co.jp/detail/5125001
お知らせ
心がひとりぼっちになった時、そっと言葉で明かりを灯してくれる本、当店オリジナル、作家小谷ふみ著書「よりそうつきひ」が発売となりました(ご購入はこちらから)。 どこか切なくて、寂しくて、愛しくて、ホッとする。なんでもない一日を胸に焼き付けたくなるようなショートエッセイが束ねられた短編集です。読んでいると大切な人の顔が心に浮かんでくる世界が広がっています。