どのように身につけたらいいのか分かりにくい、インテリアのセンス。ですが、建築家の岩間航さんから教えていただいた空間づくりのヒントは具体的で、「インテリアってどう考えたらいいんだろう…」と迷っている私にとって一歩を踏み出しやすい方法でした。
【10秒で分かる、空間づくりのヒント】は以下3ステップ。
- 空間全体を観察する。
- モノとモノの関係性を見つける。例えば、「窓の枠と絵の枠、形が似てるな」「色が一緒だな」といった共通点を探す。
- 2.で見つけた関係性を活かすように、家具や小物を配置する。
今日は空間づくりの魅力について、岩間さんと考えていきたいと思います。正解にとらわれず、自らの視点でインテリアをつくりだす方法とは?
岩間さんがオーナーを務める、東京・西荻窪の「タスカフェ」でお話を伺います。
──今日の取材場所であるタスカフェのインテリアも岩間さんが手がけたとのことで、空間づくりにおいて大切にしている考えや意識していることは何ですか?
岩間:全てのモノとモノには目に見えない関係性が存在しています。タスカフェでもその関係性が活かされるように、家具や小物を配置しています。

タスカフェに飾られている絵。ここで岩間さんが意識した関係性は二つ。①絵のフレームと窓のフレームが同じ長方形。②絵の中の図形・絵の下にある青いカード置き・本棚にある本の立てかかっている姿、三つ全てが三角形。
岩間:空間づくりでは空間にいる人がそれぞれの視点で関係性を感じ、見つけてもらえるように心がけています。関係性は目には見えないけど、仕込んでおくと気がついてもらえる。「あ、これってこういう関係性があるよね」って一個見つかると、「あ、じゃこれもこっちにつながってるのかも」って、どんどん自分で探し出せるようになる。そうやって、空間にいる人が自ら発見することを楽しんでいただけたら嬉しいですね。
──自ら発見してもらいたいというのは、なぜですか?
岩間:自由に自分の視点で何かを探せるのって、その場に受け入れてもらえた感じがしませんか?例えば美術館で絵を見るときも、目の前の絵と過去見た風景を頭の中でリンクさせていると思うんです。
──確かに、言われてみると映画や本も同じですね。自分の経験や思い出を重ねることで、共感したり感動したり。自分の気持ちを受け止めてもらえたと思える作品もあります。
岩間:それと同じように、空間でも「これってこういう関係性があるよね」と自由に自分の視点で探せると、人ってその空間に受け入れられたと感じると思うんです。自分がこの空間で「こんな発見ができた」「インスピレーションを得られた」って感覚があると、そこは他人の空間ではなくなって自分の居場所と思える。
だから「この空間はこのテーマです!」とガチガチに固めるのではなく、関係性を自由に探してもらえるようにしています。受動的にじゃなくて能動的に空間へ参加してもらえるように。その人の視点で空間を見れるように余白を残しておくという感じかな。
──今、実際にタスカフェで関係性を見つけてみたいです!下図の椅子から発想して、関係性を見つけるのはどうですか?
岩間:いいですね。やってみましょう。
──見つけました!
上図の右にある棚と中央の椅子を見ると、素材も同じ木だし、木の色も似ている。木が縦に横に組み立てられている姿も同じ流れがあるなと。
岩間:(嬉しそう)
──あとは椅子の座る部分のあみあみが、傘立てと似ているなと思いました。
岩間:これは気づかなかった…!下図の通り椅子と傘立てを近づけて置くと、関係性が見やすくなりますよ。
岩間:見つけた関係性をどう活かすかが次のポイントです。傘をさせる傘立てから発想して、椅子も何かをさせるんじゃないかと考えてみる。それがデザインですね。
それにしても「さす」関係性いいなぁ。ペン立て付き椅子をつくるとか、想像が膨らみます。
岩間:僕は上図の通り、椅子のあみあみとオーディオのあみあみに関係性を見つけました。
今思ったのはオーディオのあみあみは音を吸収するものだから、音が出るものの近くにこの椅子を置いたら吸音材としても使えますね。
──なるほど、そうやって新しい発想が出てくるんですね。全く違う話題になりますが、中身をくり抜いたかぼちゃをお皿にするアイディアがあるじゃないですか。
あれってどうやって思いつくんだろうと常々疑問だったのですが、「かぼちゃとお皿を見て形が似ているな」→「あっ、かぼちゃをお皿に出来るかも」という思考の流れなら納得できます。
話を元に戻すと、同じ椅子でもこんなに違う関係性を見つけられるんですね。
岩間:そうなんです。形・高さ・大きさ・素材・色・音・光・影など関係性は無限にあるので、自分がいいなと思った関係性を選び出します。それを活かすように家具や小物を配置して、空間をつくっていきます。
けれども訪れた人はその関係性だけに固執して見なくて良くて、自由に関係性を発見して欲しい。自分主体で空間を見てもらって、居心地の良さ、つまり空間に受け入れられたという感覚を持ってもらえたら嬉しいです。
──確かに、椅子と傘立ての関係性を自分で見つけてから愛着が湧きました。「隠された意味を見出せた!」みたいな。
岩間:僕もこの椅子に限定して関係性を探したことはなかったので、刺激をもらえました。
岩間さんは普段建築のお仕事をされていますが、人との出会いを求めてタスカフェを始めたと言います。
岩間さんがカフェに立つのは、平日の週3日。他の日の営業は別の方々にお任せしていて、カフェの名前も提供する料理もそれぞれ全く違うそう。
「タスカフェの空間は隙間だらけで、何かやりたいと思う方がいればできそうな雰囲気があって。『これやりたいです』って言ってくださった方に、『もしよかったらやってください』ってお願いしています。だからいろんな人が来てくれるんです」と岩間さん。
近郊の方はぜひタスカフェを訪れて、関係性を見つけてみてくださいね。
3日間の連載<インテリア入門>はいかがでしたでしょうか。
自分が見出した関係性を空間の中に仕込んでおくことは、暗号文を考えるときのワクワクに似ているのかもしれません。自分にしか分からない。でもひょっとしたら誰かが解読するかもしれない。
センスが良いか悪いかだけでなく、自分が納得感を持てるかどうか。暗号文をニヤッと眺めるように、空間の中に隠した関係性に愛着が湧く。
どんな家具や小物だって大丈夫。関係性を見つけてモノへの居場所をつくってあげるように意識すれば、色も素材も自由です。
オシャレな空間をそのまま真似するだけでは味わえない、自らの視点でつくりだすインテリアへのガイドとして、今回の連載が少しでもお役に立てれば嬉しいです。
<完>
写真:佐藤昭太
<プロフィール>
岩間航(いわま・こう)
1972年生まれ。東京理科大学理工学部卒。ベルラーヘインスティテュートアムステルダム(BiA)修士卒。 岩間航設計事務所(Co Urbanism & Architecture)主宰、タスオルグ、タスカフェ、+床(タストコ)主宰。
http://www.c-u-a.com/
この特集の目次
- センスに自信がなくても大丈夫。分かりやすいインテリア入門。
- 家への愛着が増すインテリア入門|理想の部屋を真似する前にしたいこと。
- 正解にとらわれない、自らの視点でつくりだすインテリア。だからこそ居心地がいい。
お知らせ
心がひとりぼっちになった時、そっと言葉で明かりを灯してくれる本、当店オリジナル、作家小谷ふみ著書「よりそうつきひ」が発売となりました(ご購入はこちらから)。 どこか切なくて、寂しくて、愛しくて、ホッとする。なんでもない一日を胸に焼き付けたくなるようなショートエッセイが束ねられた短編集です。読んでいると大切な人の顔が心に浮かんでくる世界が広がっています。