春 福岡の旅

料理家cayocoさんの食と人をつなぐ旅 第1話「かわいい」と感じる目と心。そこにはいつだって愛がある。

東京・西荻窪の食とセラピーのお店「ていねいに、」の料理家cayocoさんが、春夏秋冬の旅を通じて人・食材・土地と出会い、その土地の保存食をバトンに食と人をつなぐプロジェクト「food letters」。その旅とレシピを一冊にまとめた本が、当店より来年6月発売予定です。

旅の伴走者として密着取材をさせていただいてる私たちは、これまでTwitter中継動画速報などで旅の様子をお伝えしましたが、本日より全7回に分けて春の旅の軌跡をお伝えします。

築60年以上の大きな古民家から、旅が始まる

春の旅の訪問先は、福岡県北部、福津市の津屋崎という港町。旅のコーディネーターとして協力していただく三粒の種さんの角信喜さんと木村航さんと顔合わせをするところから、旅は始まります。

「おじゃましまーす!」

玄関のドアを開くと自動で照明がつくような今風な家と違って、古民家を訪ねると、広くてちょっと薄暗い玄関に、客人はポツンと置かれます。目の前に見える仄暗い廊下は、この家の広さを語っているかのよう。

「はーい!」

遠くから返事が聞こえるとホッと微かな安心感。よいしょと靴を脱ぎ、廊下を抜けて日当たりの良い縁側へ。そこでお布団を運んでいる途中の角さんと木村さんを見つけました。

津屋崎の旅のテーマは「人との出会いを味わう」

お二人の活動の拠点となっているこの「浜の家」は、築60年以上の大きな古民家。小学生や中学生が町や自然と関わりながら遊び学ぶ場所として、普段は民間学童と部活動が開かれています。

子どもたちが賑やかに出入りする場所で、今回cayocoさんは寝泊まりをし、かつこの場所に旅で出会った人たちを招いて食事会を開くことが決まっています。

津屋崎の旅のテーマは「人との出会いを味わう」。事前のアポなしで地元の人や食材と出会う旅です。

野菜を作る農家さんと、野菜を受け取る人たち
見える関係性の中で丁寧に野菜を届ける

まずはお互いの自己紹介からスタート。大きなテーブルを挟んで向かい合うと、少しだけドキドキ感が。

こんな空気には慣れているのか「じゃあ、僕から」と切り出してくれたのは角さん。生まれも育ちも津屋崎っ子。普段は津屋崎野菜の宅配便と、ご自身でも野菜作りをしています。

身体に良い安全な野菜を提供するだけでなく、野菜を作る農家さんと、野菜を受け取る人たちを繋ぐような場づくりをしながら、顔の見える関係性の中で丁寧に野菜を届けています。

「好きなごはんは、人を自宅に招いて、人と食べるごはん」と話すのは、もう一人のコーディネーター木村さん。

地域起こし協力隊として若い人の移住を募集するプロジェクトに参加したことをきっかけに、この町で暮らし始めて9年が経ちます。行政と協力しながら地域起こしを行うファシリテーターとして活動しながら、この春からは町の子どもたちのための民間学童をスタートしました。

空気が吸いやすい。程よく町っぽい、そのバランスが良い。

自己紹介を終えた後は、歩いてすぐの漁港に隣接する直売所へ。今夜と明日の朝ごはんの食材を仕入れます。

歩きながら津屋崎の印象をcayocoさんに伺ってみると「空気が吸いやすい。程よく町っぽい、そのバランスが良いですね。」とのこと。

どの場所でも当たり前にある、空気。普段の空気が吸いやすいのか吸いにくいのか。それは違う場所に身を置くことで気がつきます。こんな小さな発見が、旅ではいくつも重なっていきます。

cayocoさんの「かわいい」認定

お店に並べられている食材を見つめるcayocoさん。料理家の人は、どんな風に食材を手にして選ぶのだろうと興味深く観察していたところ、その目は、ルンルンと輝くわけでもなく、キランと厳しく光らせるわけでもありませんでした。淡々と見つめるだけ。そしてcayocoさんは選ぶ時に決まってこう言うのです。

「かわいい。」

スナップエンドウを見て、ぽつり。「え!?このスナップエンドウ?」と慌てる私の心。普段そんな目で見たことがありませんでした。

次はアコウと呼ばれる赤い魚をみて「かわいい」、卵を見ても「かわいい」。カゴにcayocoさんの「かわいい」認定をされた食材たちが積まれていきます。

そこにはいつだって愛がある

この「かわいい」という言葉。旅の中で、この先何度も繰り返されます。次第に私の中にも芽生えてくる、「かわいい」と感じる目と心。

野菜って、魚って、畑って、こんなにかわいかったんだ。

かわいいを漢字で書くと「可愛い」。そこにはいつだって愛があるのです。cayocoさんの優しいごはんの秘密が、一つ紐解けたのかもしれません。

写真:浅田剛司

つづく

この特集の目次

  1. 料理家cayocoさんの食と人をつなぐ旅 第1話「かわいい」と感じる目と心。そこにはいつだって愛がある。
  2. 人と同じように野菜に対しても、心を大切に置くこと。
  3. 旅先で心に沁み渡る、一日が穏やかに終わることの尊さ。
  4. 知らないって寂しい。知るって嬉しい。だから人は優しくなれる。
  5. 旅の偶然の出会いは、なんでもない風景を忘れることのない景色へと変える力がある。
  6. 料理はこんなにも人の心を伝えてくれる。
  7. 人が人を想う心は見えないけれど、本当はこの世界に溢れている。

お知らせ

心がひとりぼっちになった時、そっと言葉で明かりを灯してくれる本、当店オリジナル、作家小谷ふみ著書「よりそうつきひ」が発売となりました(ご購入はこちらから)。 どこか切なくて、寂しくて、愛しくて、ホッとする。なんでもない一日を胸に焼き付けたくなるようなショートエッセイが束ねられた短編集です。読んでいると大切な人の顔が心に浮かんでくる世界が広がっています。

この記事を書いた人:

「よりそう。」館長。時として編集長に変身し、ライターとして駆け回り、ドローンも飛ばしちゃいながら、訪れるみなさんをお出迎えします。好きな本は、稲葉俊郎『いのちを呼びさますもの』。好きな料理は、さつまいも料理。
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