息子の通う幼稚園には、樹齢60年位かと思われる楠の巨木が二本。どっしりと根を張り、のびのびと枝葉を広げ、子供たちの遊ぶ園庭に気持ちの良い木陰を作っている。
春から芽吹きの新緑の季節にかけて。新年度を迎え、進級、クラス替えなどでそわそわしている時期、この楠もなんだか様子が落ち着かない。
この時期、楠は紅葉するのだ。
赤や黄に色付いた葉を、はらはらと落としている。大木が二本もあるので、その量はすごい。風に揺れると、葉っぱが「降っている」という感じ。毎日本当に綺麗にお掃除してくださる園庭だが、それでもちょっとの間にすぐに葉っぱが園庭の隅や、階段の吹き溜まりに、もう、溜まりつつある。
ある日、用事があって夕方息子をお迎えに行くと、プレゼントを渡された。色付いた楠の葉っぱを拾って、束ねて、お花に見立てたもの。ゴムで縛ってまとめてある。先生と一緒に作ったのだとか。
秋じゃないのに、秋の風情の、手のひらサイズの立派なお花が一輪。造形の面白さ。そして、なんだか妙な季節外れ感。でも、楠にとっては只今そういう季節なのだ。
ちなみに、楠は紅葉して落葉するとほぼ同時に、新緑が芽吹いている。新しい葉に押し出されるように、古い葉が落ちてゆく。いわゆる落葉樹のように、裸の枝で過ごす時期が無いように見える。その楠独特の春の衣替えに、この紅葉した葉っぱの花を受け取って、初めてはっと気が付いた。
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